ユリ 七月の百合

岩波新書の「花を旅する」栗田勇著(2001年3月21日刊)を参照しながら、
一年かけて、私も花の文化を考える旅をすることにします。

さて、七月の百合です・・

白ユリ
photo by ぱんだ雑貨店

栗田勇「花を旅する」要約

花の女王

七月
夏とはいえ、花ざかり
  アジサイもいいがユリを

百合の思わざる象徴


湯河原の仰木魯堂の茶室
お庭が三千坪の山荘
山野草の中の大輪の花の魅力
妖艶な匂い
忘れがたい夕刻のひととき


大正モダンの百合と女

最近注目されている
甲斐庄楠音(かいのしょうただおと)
大正7年でビューの画家 村上華岳の弟分
モダンなものと江戸歌舞伎趣味を融合し、
大正モダニズムの女性の肉体と生理を描いた。
作品「白百合と女」

ロダン、ムンクなどとシュールレアリズム、
ミケランジェロの裸婦を取り入れた怪奇的な作品群のなかの小品。
京都の裕福な宮侍の出身
ホモセクシャリスト
その象徴の花だったのではないか

大正モダニズムは日欧という
雌雄同体の百合の花で象徴される文化の花

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甲斐庄楠音(1894〜1978)
「元禄忠臣蔵」「お遊さま」「雨月物語」などの
溝口作品の時代考証、衣装考証を担当。

白百合と女 1920 絹本着色・額 133.0×51.5
http://members.at.infoseek.co.jp/kainoshou/discussion/kai010.htm


AYAさんのヤマユリ


ユリの種類
大形の花(日本原産)
ヤマユリ オニユリ
古代から親しまれた可憐なもの
サユリ ヒメユリ

現代 外来種 バイオ交配のもの
カサブランカなど身近に。
日本は百合の王国
世界で80種類の原種の6分の一は日本産

19世紀後半のプランタハンターが
ヤマユリの種をひく非常に豪華な大形のユリをもちこみ
小型しか知らなかった西欧人に大変なショックを与えた

古代の心をうつす万葉のユリ
後=ユリ
ユリの歌
万葉集では短歌が9首 長歌が1首ある。
ゆれるというところからくる「揺り」
「後」をユリといい、そのユリにかけたものも多い

万葉集事典(有精堂出版)→注. byM
植物の名がきわめて多い
古今和歌集は万葉集の四分の一しかない。


道の辺の草深百合の花咲(えみ)に
咲(え)みしがからに妻といふべしや
巻七、1257



夏の野の茂みに咲ける姫百合の
知らえぬ恋は苦しきものそ
坂之上郎女
巻八、1500

あぶら火の光に見ゆるわが蘰(かづら)
さ百合の花の笑まはしきかも
大伴家持
巻十八 4086


燈火(ともしび)の光に見ゆるさ百合花
後(ゆり=将来)も逢はむと思ひそめてき
伊美吉縄麿
4087

さ百合花 後(ゆり)も逢はむと思へこそ
今のまさかもうるはしみすれ
家持
4088

筑波嶺のさ百合の花の夜床(ゆとこ)にも
愛(かな)しけ妹そ愛しけ
巻二十 4369


清純な外から見た形と妖しい生命の源を生み出す内側の形
注. 現代の万葉学第一人者中西進
全訳注原文付き4巻および
別巻として万葉集辞典
講談社文庫に入っている

源氏物語から西行へ
親しみやすいが ある霊性を持つ花として歌われる
催馬楽「高砂」

なにしかも(なんだって)
心もまたいけむ(いそいだのか)
百合花の
さ百合花の
今朝さいたる
初花に
あはましものを
さ百合花の



源氏物語 賢木(さかき)の巻にもでてくる
(光源氏の運命が暗転する波乱万丈の巻)

それもが(その文句がほしい)と
今朝開けたる初花に劣らぬ
君が匂ひ(容貌)をぞみる
頭の中将

時ならで今朝咲く花は夏の雨に
しをれにけり匂ひほどなく衰えにたる物を
光源氏

雲雀たつあら野にふる姫ゆりの
なににつくともなき心かな

西行 山家集

ユリの花祭り

ユリの祭りで有名なのは
奈良の狭井(さい)川ゆかりの率川(いさがわ)神社の
三枝(さいぐさ)祭…サイ=ヤマユリの祭り

近畿で最も古い信仰は奈良盆地の三輪山信仰といわれる
日本の山岳信仰の拠点
奈良時代の二つの重要な祭りが残されている
鎮花(はなしずめ)祭り…狭井神社中心
4月18日に三和山のユリネやスイカズラを特別な神のお供えとする。

鎮花(はなしずめ)祭り…同じく狭井神社中心
6月18日 三枝(さいぐさ)祭

由来…古事記

神武天皇が皇后を選ぶ時
七人の三輪の乙女に出逢い
その中でヤマユリがたくさん咲いている狭井川のほとりで
伊須気余理比売命(いすけよいひめのみこと)を選んだ

川辺にヤマユリが多く咲いているので狭井(佐韋)川と名づけた
ヤマユリ=今のササユリ=サイ佐韋

美しさと生命と信仰のシンボル

家紋にはほとんどない
…下向きに咲く姿が好まれなかった


伝説と舞曲
ユリという名前をとった英雄伝説
嵯峨帝のとき、百合若大臣

→「幸若舞」(室町時代)

坪内逍遥によれば
この百合若という名は、ホメロスの、
「ユリシーズ」のユリから来ているのではないかというが、

生命力の強さを言う「若」がついているので
百合に花の生命力繁殖力エネルギーの強さを託したとも言える

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幸若舞

西洋でのイメージは

白ユリが中心

ギリシア神話
ヘラの胸からほとばしった乳が
天に向かっては銀河となり、地に向かっては白ユリとなった。

キリスト教時代
聖母マリアを飾る聖性、純潔として、さまざまな儀式でユリを飾る


フランス ブルボン家の紋章
生命力、子孫の繁栄、幸福の象徴
十字軍の旗 類休止絵が三つのユリで旗と紋章を飾った
力、純潔、美しさ、優雅さ

マラルメが歌った魔力
19世紀に非常にユリがはやった。
象徴主義詩人(ボードレール、ヴェルレーヌ、ランボー)が共感をもった。

レ・フルール

あなたは百合のしのび泣く白さを創造(つく)った
青白い水平線の紺碧の香をとおして
触れ合う溜息の海を渡りつつ
涙にむせぶ月へと夢見つつ昇りゆく。

母よ、あなたは正しく強いその胎内に、
未来の壺揺(ゆす)る蕚(うてな)、芳香高き死とともに、
大輪の花卉をつくりたもうた。
蒼ざめて生活に疲れはてた詩人のために。


Stephane Mallarme,(1842年- 1898年)
1864年作:加藤美雄訳



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